あたしとウタ
なにか、夢を見ていた気がする。
昔の夢。
ふと、自分の頬が濡れていたことに気付いた。
夢を見て泣くなんて、もう少女でもあるまいし。
苦笑いした瞬間、夢の断片がフラッシュバックしてきた。
地元駅のロータリー。アコースティックギター。行き交う沢山の人たちの足音に負けそうなくらい、小さな拍手。
ここから羽ばたいていけない自分。
それと、差し出された1枚の名刺。
あの頃の夢。
気が付くと、ギターを手に取っていた。もう使っていない、古いギターを掻き鳴らす。浮かんだ言葉を音に乗せる。
ただ、さっき見た風景を、抱えていた想いを、忘れないように。
手元が見えなくなるほど辺りが暗くなり、ようやく我に返った。
時間も忘れてひたすら曲を作り続けるなんて。それこそ少女じゃあるまいしな。
朝と同じ様に、苦笑いがこみ上げてくる。
ただ、楽譜もないその曲は、頭から離れようとしなかった。
メロディーとアコギとコトバだけ。
大事にしよう。
いつか、この曲を作らせてくれた、大切な人たちに届けるまで。
「なあ、プロデューサー。次の定期ライブで演る曲なんだけどさーー」